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東方海恵堂~Marine Benefit./海恵堂異聞:Migration to the conceptual sea./海探抄/九頭竜抄"缠"

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< 九頭竜抄之二   海探抄   迷いあやかし之一 >

(本当に人間がここまで来たなら、その時は考えるよ)


 人竜一対の神様である九頭 宿祢さんとの一戦が終わって、私達は宿祢さん達の神社にある無人の社務所でお茶を頂いています。私と天平ちゃんと宿祢さんは手に持って、そして九頭竜の皆さんは口の広い湯呑みに頭を突っ込んで飲んでいます。湯呑みの数は私達人間の3つと九頭竜の皆さんの9つ…なんというか、多いです。
「お茶、おいしいし」

(それで、どうして人間を嫌っているか?だったな)

 湯呑みから顔を出した蛇の一体が私達に話しかけてきた。

 宿祢さん達曰く、今回は私達の勝ちだそうですが、そう言っている宿祢さんも九頭竜の皆さんも、この戦闘中とても余裕そうでした。竜たちは煽ってばかりでしたが、何よりも宿祢さんが、時々我が子を見るような優しい微笑みを下さっていたのは、なんとも言えませんでした。まぁ、私は綿津見様を借りた身、宿祢さんは神様そのものですから、差があって当たり前ですが…むぅ
「この神社があるのは深海より更に深い場所…私と九頭は"冥海"と呼んでいます。この冥海は、現世の人間が到達しなかった深さに存在してまして、この神社も含めて、冥海は常に人間の到達しない場所に存在します」

「人間が到達しない…それで、私が来ることを嫌っていたのですね。でも私、来ちゃいましたけど…?」

(そりゃあ問題ねぇよ。今のお前は人間じゃなく現人神だからな)

へぇ…

………

「………待ってください、それじゃあ私が嫌われる理由は無かったのでは?」

(ほう、今更気づいたか?)

「あ、あはは…」

 次があったら、九頭竜はきっと私の手で調伏させましょう。そうしましょう。
「でも、九頭は現世より幻想の楽園に行きたいんですよ。現世にいては堂々と暴れられませんし」

「暴れるつもりなんですか?」

(オレは厄災の方の具現だからな。人間相手に暴れるのはオレの仕事さ)

 幻想の楽園…以前、ほんの少しだけ聞いたことがあります。この世界とは別に、世の中で忘れられた存在が流れ着く場所があり…海琴様や乙姫様は、今はその世界の住人であるらしいです。

「探してそこに行くことはしないのですか?」

「そうできれば良いのですが…残念ながら私も九頭も幻想の楽園には行くことが出来ません」

 宿祢さんは、困り顔でそう断言した。

「幻想の楽園は、忘れられた者が辿り着く場所です。私達のように、人間の間に脈々と伝わる伝承はどんなに頑張っても忘れられることはありません」

(ましてや九頭竜のオレたちは河川の名前にもなっているんだ。少なくとも河川が消失しない限りオレたちは向こうには行けないだろうな。しかも、九頭竜伝承はオレたちだけじゃない。原初の伝承から根こそぎ忘れられた時、初めて足を踏み入れる権利が手に入る)

 口惜しそうに九頭竜は呟いた。そして、諦めたようにため息をついて続けて口にする。

(つまり、オレ達は"知られ過ぎた者達"って訳だ)

「知られ過ぎた…者達………」

「んー、よくわかんないけど蛇も大変だし」
 神社の境内を見回す九頭竜。閑散とした神社を見る九頭竜の目は、この場所の静けさを喜ぶようにも、この場所にいることを悲しむようにも見えました。やはり、幻想の楽園は人ならざる者達にとってそれだけあこがれの場所なのでしょうか。

「それで、つくしさんと天平ちゃんはこれからどうするんですか?」

 郷愁に浸っていると、宿祢さんから優しい声がかかった。

「えっ?あぁ………うーん、そうですね。とりあえず、あの手合わせで私はお二人を調伏したことになる………んでしょうか?」

 尤も、調伏と言うにはあまりにお粗末で、宿祢さんたちにとっては本当にゲームでしか無かったのでしょうが………
(ま、いいんじゃねえのか?お遊びとは言え、ゲームに勝ったのは事実だろう?)

「そうですね、勝敗の付けられる範囲でつくしさんは私達に勝利したと言うことでいいと…思います」

 そう言って宿祢さんは、たどたどしくも優しい笑みを見せてくれました。

(オレも、ちょいと物足りないが暴れることが出来たしな。ちょいと物足りないが、な)

「悪かったですね、ちょいと物足りない現人神で」

「んー、とりあえず蛇は暴れたいんだし?」

(あぁ、大雑把にまとめればそうだな?どうしたチビ助?)

「じっとしてるのが嫌なのはアタシも分かるし。じっと座ってお説教聞いてるのは大嫌いだし」

(あいにくオレに説教をくれる奴はいねえが、なんだお前、もう一つ勝負やるか?)

「いひひー、面白そうだし!蛇なんかには負けないんだし!」




「九頭?」
「天平ちゃん?」



(ぐ………)
「う………」

 私と宿祢さんの一言が同時に二つの暴れん坊に突き刺さり、空気が凍りつく。九頭竜の皆さ
ん、ちゃんと説教してくれる人はいるじゃないですか。
………


「あの、そろそろ戻られた方がいいのではないでしょうか?」

 どれくらいこの神社にいたのか、宿祢さんが私達に帰ることを促した。

「そうですか、ついつい長居してしまいましたね」

「それじゃあ海恵堂に戻るし」

 そして、長らくお邪魔していた社務所から立ち去ろうとする。

「あっ、あのっ!」



 すると、急に宿祢さんが振り絞るような声で私達を呼び止めた。振り返ると、少し思い詰めたような表情で何かを言おうとしている宿祢さんがいた。

「はい………?」

「………檍原さん。その…気を付けてお帰りくださいね」

「それはもちろん、そのつもりですが…?」

 宿祢さんの表情から、それが額面通りの意味ではないことはなんとなくわかった。そして暫しの沈黙の後、宿祢さんが言葉を続ける。

「その………私達が人間に負けたことは、遠くない内に現世の者達に知れ渡ります。そうなれば…檍原さんも平穏とは行かないかもしれません、それは…その………あなたの家族の時のような…」

 不安げな宿祢さんの言葉。そして、私の家族の話をするということは、宿祢さんも私の家系の事は知っているようですね。神様はお見通しということでしょうか。

(そう長くない内に、お前らは現世の奴らの事を知るだろうよ。人間が立ち入ることのない場所、人間が観測出来ない瞬間、人間の勝手な想像…そんな、人間に関わる僅かな隙間にそれは居て、そいつらはルール無用で人間を脅かす。そう、お前が見た"モノ"達のようにな…あぁ、あの"モノ"は人間の成れの果てか)

「こ、こら九頭!」

 私の家の事情に踏み込むような九頭竜の言葉を宿祢さんが慌てて遮る。しかし、経験した私からすれば、九頭竜の言っている事はそれほど間違っていないとも思ってしまう。
(現世は広く、人間の世の中同様ルールが曖昧だ。オレたちはお前と龍宮城の事を知ってたからこうして相手をしたが、全てがそうだとは思わねぇことだ)

「今後は現世にいるお二人のような現世の存在が私を狙う可能性があるということですか?」

 宿祢さんは黙って頷いた。

 九頭竜は、ふいと視線を反らして反応して見せた。

 そして私は二人を見ながらクスリと笑う。

「お気遣いありがとうございます。ですが、私はそれでも構いません。人間という檻の中で、手も伸ばせずに閉じ込められていたあの頃に比べれば、綿津見様と一緒に手を伸ばせる分だけ圧倒的に楽ですよ」

 だから、そんな暮らしを護る為にも、不安にとらわれている暇はありません。

「つくし…なんかカッコイイし!」

「檍原さんは、強いのですね」

(そう言う肝の据わり方を、こいつにも教えてやってくれよ?)

「もぅ…」

 再び九頭竜が宿祢さんの頭をその首でぺしぺしと叩く。そんな二人を眺めつつ、私と天平ちゃんは神社を出て冥くない海へと戻っていった。

「それじゃあ、檍原さん・天平ちゃん。さようなら」

(じゃあな)

 簡素な挨拶に送り出されて、私と天平ちゃんは神社の領域を出て、綿津見様の泡に包まれて、海を昇っていきました。


「ねぇつくし」

 神社と幾本もの鳥居を抜けて龍宮城のある海へと登る途中、天平ちゃんが声をかけてきました。

「どうしました?」

「あの蛇達と、また会うことは出来るし?もう一度暴れる…は無理でも、あの二人とは時々会えるし?」

 天平ちゃんの純粋な質問に、私は少し考えます。

「…どうでしょうね、私にはわかりません」

「会えないし?」

「今はまだ会うことは出来るでしょう。ですが、常に人間の居ない場所にあるという事は、いつまでもあそこにあるとは限りませんから」

「?」

………


 私達が、次にあの場所を訪れる時までに、人間があの深さに行かない保証はない。ロマンを求める人間があの神社の深さまで至ったのなら、きっと二人はそこには居なくなるだろう。もしかしたらもっと深くに…或いはもっと別の場所に…



"本当に人間がここまで来たなら、その時は考えるよ"


いつか、誰かが成し遂げるだろう深海探査。九頭竜はそれを思ってあんなことを言った。

私が次に"そこ/底"を訪れるか、
他の人間が"底/そこ"に辿り着くか、

この現世で、果たして早いのはどちらでしょうか?















2017年現在の、人間の最高到達深度
バチスカーフ・トリエステ号、10,911メートル…










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