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東方海恵堂~Marine Benefit./海恵堂異聞:Migration to the conceptual sea./海探抄/缠之一

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< 之十一   海探抄   缠之二 >



「は、はいぃぃ!?私が海恵堂の巫女にですかっ!?」

 深海深くの海恵堂。色々あってそこに住んでいる海の六姉妹の長女"京雅"さんに完全勝利して、私はその六姉妹に囲まれながら、海恵堂の賓客用の大広間にいます。そして、姉妹の皆さんと一緒に長女の京雅さんの話を聞いていると、思わぬ情報が耳に飛び込んできて、私は突拍子もない声を上げてしまいました。
「その通りでやんす。いやぁ、つくしさんみたいな人が適任者で良かったよかった。あんたさんみたいな可愛いお人なら、あっしらもやりがいが…」

「ち、ちょっと待って下さい!可愛いかどうかはその…ともかく、私はまだ何も返事をして…」

 大座敷の床の間で片胡座をついて私に事の次第を説明する京雅さん。その話によると、海に住まう彼女達の御母様が、今の場所に新たな社殿を立てることを計画して、その際に社殿を守る海の姉妹を生み出した。そして彼女たちの役目は、この深海の社殿を管理するに足る人間を迎え入れることだった…と、そういう理由だったそうです。
「そしてつくしさんはあっしとあっしの姉妹に勝利した…文句なしにこの海恵堂の巫女に決定でやんすよ!」
 快活に笑ってそう説明する京雅さん。いやいや、その辺の説明も今されたばかりでして…それに、私には中津綿津見様がついています。

「わ、私は仮にも檍原の現人神です。皆さんの神様がどうなのか知りませんけど、その役目を手放す……訳には………」
 それに続く言葉が出なかった。
 というより、その提案をすっぱり否定が出来なかった。

「歯切れが悪いでやんすなぁ。何か"檍原に気がかりなことでもあるんでやしょうか?"」
 片肘で、意味深に呟く京雅さん。うちに募るもやもやを言い当てられたようで背筋がピンと張った。そんな私の内心を知ってか知らずか、京雅さんは膝をぽんと打って


「………ま、神様の件は問題ないでやんしょ。ですよね、海琴様?」


 京雅さんがそう言って自分の後ろを振り返ると、何もなかった空間からすぅっと人が現れた。
 それは美しい蒼の着物を纏った黒髪の女性。龍を象ったのであろう長いスカートに描かれた意匠と、冠のような銀のかんざし。その美しく整えられた髪間から覗く瞳、口元…その表情の全てが、慈愛と言う言葉に彩られたような、そんな女性だった。
鮮美透涼海神の形
八百比 海琴/Yaobi Mikoto
「………初めまして、中津綿津見神の巫女様」

「は、初めまして……!」
 決して人を警戒させない、琴の弾かれるような優しい声に、思わず返事が遅れてしまう。
「私はこの海恵堂の主人である海神"八百比 海琴"と申します」

「海神様…という事は中津綿津見様の……!?」

「えぇ、起源を同じとする綿津見神の派生にあります。末裔…と言ってもいいのかもしれません」
 ふわりふわりと、絹糸のような軽さの話し声に耳を奪われながらも、私は海琴様の話を理解した。なるほど、深海の龍宮城にして海の信仰の本尊…それで綿津見を有する私に目をつけていたということですね。

「あんたさんの綿津見神様は、言ってみれば海琴様の祖神とも言える者、そんなお方がここの巫女に為ればきっとうまくいくと、海琴様…そして、我らの悠久の客人"観福宮 乙姫"様が提案をしたと言う訳でやんす」
 龍宮城に乙姫…"亀に乗った浦島太郎"をもじるのなら、さしずめ私は"神を背負った浦島花子"というわけですね。

「なるほど事情はわかりました。しかし、それでも私は檍原の人間です。中津綿津見神様を宿す身として、何があっても檍原をふいにすることは………」









「………檍原家に、貴女の全てを脅かされて尚…ですか?」










「え………」

 海琴さんの言葉に、息が詰まる。そして、そう言った海琴さんの顔は、痛く悲しそうだった。
———…我らの客人たる乙姫様はこう言っておられました。檍原は、ただ一人の現人神に歓喜すると同時に、その力を我が物にしようとする、人にして人にあらん者たちの巣窟と化している。そんな醜悪で小さな世界に神様と未だ幼い貴女を置くのは誰が見ても愚策である。

「………と」

 海琴さんから告げられた話に、私は肩の力と大きな気力が抜け落ちた感覚を覚えた。
「………全部、知っていたのですね」

「いいえ、全ては私もこの話をしてくださった乙姫様も知りません。乙姫様曰く、自分の及ぶ範囲でちょっと調べただけとのことです…心苦しいのは承知ですが、檍原つくしさん、貴女の居た檍原家で何があったのか、話してはもらえませんか?」

「………」

 梅雨の夜帷より薄暗い話だ。
 まだ物心がつくかどうかという頃、私が家の習慣で形式だけの儀礼をこなしていた時、水が珠となり宙を浮き、海に願えばモーセよろしく海は姿を自在に変えた。それは、檍原家の末裔である私に、中津綿津見様がくださった力だった。

 それを目の当たりにした両親が、檍原本家の当主に言い伝え、本家から分家まで、檍原の一族が集った中で、私は無邪気にもその御業を披露した。その場にいた人たちは、現人神の誕生を喜び、家の家長である私の曾祖父は私の頭を優しく撫でてくれた。


 優しさは、それが最後だった。


 その力を檍原の外で使うことは無かったので、学友とのいざこざはなかったけれど、そんな明るさのわかる暗さの方が、私が経験した"モノ"に比べればよほど楽だったかもしれない。

 時には幼い自分に甘言蜜語を弄して、私を引き入れようとするモノがあり

 時には両親に対してやれ養子だの交換だのと、自分の子どもを物とも思わぬ提案を持ちかけるモノがあり

 時には、一人で留守番をしていた私の手を直接引いて、無理矢理にでも私を奪おうとするモノがあり

 時には、私の過ごしていた同い年の子たちとの場所でも、その子達に危害が及ぶことも厭わず私をつけ狙うモノがあり………
 一つ幸運だったのは、それらの全てを中津綿津見様が可能な限り退けてくださったことです。いつか綿津見様に問うた時、綿津見様は自分を宿す人を守るのも神の御業だと言ってくれました。

 しかし、それでも来るものは絶えませんでした。小さな私には暗さを測ることも出来ない、人間という皮をかぶった"モノ"。それが、私や私の両親と、私の過ごす全てを襲った。何年も、何年も…私が今の歳に近くなる頃まで、ずっと…
「………両親ですら、その一件で私を疎み、一時は私に"産まなければよかった"とまで言ってくれました。そうでしょうね。あの時私が普通だったなら、私はただの檍原の末裔で済んだのですから」

 何年、その"モノ"が私達を取り囲んでいたかわからなくなった頃、檍原の本家で頭を撫でてくれた曽祖父が、私に近づいた身内に厳罰を処した事と、それに伴って、私達に檍原から脱出するための場所を秘密裏に用意してくれたことで、この一件は区切りが付いた。両親も、私に放った言葉について私に平謝りをしてくれました。
「あとは、ここにいる私が全てです」

 結びの一言を言い終えて、海の姉妹のみなさんも、海琴様もしんと静まり返る。
「この町は、海上にあるあの場所は。私がようやく見つけた平和に暮らせる場所です。綿津見様が助けてくださり、私の曽祖父が用意してくれた安住の場所ですから、私は海上の町に居ることを…選び………」
 言いながら、声が震えているのがわかる。

 話しながら、視界が霞むのがわかる。
「つくしさん………」
 海琴さんの柔らかな言葉に、自分の奥底から何かが湧き上がってくる。


 自分でもわかっている。
 人間として、真っ当に地上で生きていくのなら、あの場所も必ず平和であるとは保証できません。檍原の当主が変われば、私にも何か声はかかることでしょう。もしかしたら、私はまたあの暗闇の中に戻されてしまうかもしれない。あるいは、秘密裏に引っ越したこの場所が、遠くないうちにあの"モノ"達に知れて、また私はそれらと対峙しなければならないかもしれない。そんな震えるような暮らし…もう


 いや、だ。


 戻り、たく…ない
「………せん」



「………ありませんよ、当然じゃないですか」



「………もう、もどりたくありません…おとうさんやおかあさんと、わたしをたすけてくれたわたつみさまと、このままへいおんに、くらしたい……です」