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東方海恵堂~Marine Benefit./海恵堂異聞:Migration to the conceptual sea./遷宮抄/之二

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♪:新地探訪 ~ Sea of stratagem
「とりあえず、現世でもなんでも分社を建ててみればいいじゃないの。どうせなら最初から海がある場所にさ」
 まるでハイキングにでも行こうかという気風で乙姫はそう促した。
「…と、乙姫様から提案されたのですが、恵や皆さんはどうでしょうか?」
 集まった者たちから意見を募る海琴。しかし、海琴や恵は集まった全員にそんな高尚な話をしているつもりはない。海の姉妹の中でもこの話をちゃんと理解できているのは数人ほどで、特に"下四の姉妹"と言われる海いろは以下の姉妹はこの話に追いつけるほど成熟していない。そのなかでこの話を理解している側の人物から声がかかった。
「まぁ、うちらは御母様の御意思に従うまで。それに、分社を建てるとなれば尾張姉様の働きもちゃんと報われるいうものですわ」
十色の表現者
花錦/Hananishiki
十色的表现者
花锦/Hananishiki
 姉妹の話がわかる側である花錦が海琴に意見を述べる。一方で話がわからない側の姉妹たちは、花錦が肯定していることを察してこくこくと頷いて賛成を表していた。
「私は御母様に、そして尾張姉様に従いますし、それは私ら海の姉妹みんながそのつもりですわ」
 気楽そうに花錦がそう述べると、姉妹全員が納得に首を下げた。それが、海の姉妹の意思だった。
 そして、十人の考えを聞き入れた海琴と恵は、互いに少々違う反応を示したが、姉妹の意思を自分の心内に染み渡らせた。
「………まぁ、娘や姪たちがそう言ってくれるのなら、何も考えないわけにはいかないわね」
「駆け出しは少し心配でしたが、乙姫様の妙案で道が開けそうですね。乙姫様には重ねてご恩をお返ししなければなりません」
 そして、海琴が召集をかけて住人たちの意思を確認した結果、幻想郷の海恵堂のほかに新たな海恵堂を分社として作る事が決定された。
………
………
「さて、どうしたものか」
 話がまとまってすぐ、恵は自分の部屋に様々な書物を持ち込んで海恵堂の分社に最適な場所を探していた。だが、現世の"今"を繁栄している資料はこの幻想郷では貴重である。自分達が調達出来る資料だって現世の"いつ"を著したものなのかわからない。それ故に、いざ資料に手を掛けたとしても、有用な情報が手に入るとも限らないのだ。
「なんで私まで付き合わされるの?」
 そんな恵の部屋の隅で煙を燻らせながら香澄が資料を読み漁っている。恵の一声で半ば強制的にここで調べ物の手伝いをさせられて、こうして新地開拓要員を担っているのだ。
余計な入れ知恵をした乙姫様を止めなかった罰よ」
「私はあの提案は面白いと思ったんだけどな?」
 気楽な香澄の言葉に、恵は一層頭を抱える。
「さっきも言ったように分社を建てるのは御伊勢様の式年遷宮とは訳が違うのよ。しかも幻想郷にいる私達が現世に分社を建てるとなれば、はっきり言って自殺行為なわけ」
 幻想入りした者達が現世に舞い戻る…忘られたものが思い起こされるというのは、絶滅したニホントキが現実にいきなり沸いて出てくるくらいに難しい。常識と非常識…覚えられているものと忘られたもの…その境をまたいで存在するというのは、難易という尺度では計れないものである。
「もしそれが幻想郷に悪影響を与えるのなら、私達は幻想からも現世からも賞金首よ」
「相容れない二つの世界を跨ぐ、か…そういう概念的な話は私達には難しすぎるんじゃないか?」
「あなたはそれも考えずに傍観してたの?」
 香澄の浅慮に、恵の頭痛は増すばかりだった。



「おやおや?お悩みのようだねぇ」
 二人が取り留めの無い話をしていると、事の発端である乙姫が飄々とした口調でやってきた。その目はどこか悪戯めいていて、まるで恵たちがこうなっていることを楽しんでいるようにも見える。
「はい…大変不躾とは思うのですが、乙姫様の難題が余りにも難題過ぎまして…」
 本を読みながら乙姫に返す恵。乙姫は自分に目もくれず調べ物をしている恵と、それを眺めている香澄を交互に見つめる。香澄は乙姫に向かってやれやれとでも表すように両手を広げ、乙姫はそんな香澄を苦笑いで一瞥して、恵に提案を投げかけた。
「ふーむ…それなら私がちょいと現世に下見に行って来ようかしら?」
「現世に下見ですか、それはたし…って!?乙姫様がですか!?」
 途中まで乙姫の話を聞き流していた恵が、にわかに立ち上がって乙姫の方へと振り返る。
「うん。みんなは新しい海恵堂の社殿の構想を練ってればいいよ。私が現世から程よい場所を見つけてくるから」
「し、しかし乙姫様…貴女はこの海恵堂の重要な客人です。そんな賓客に我々の私情を委ねるなんて…」
 観福宮 乙姫は、海恵堂の賓客である。
 海恵堂と、それを有する海の計画を手助けし、海恵堂の設立に関わった彼女であるが故、海琴も恵も乙姫を至上の客と称して、ここでもてなし続けている。それ故、自分達の仕事をこれ以上助けられてはもてなす側としての面目が立たない。恵が口を噤むのには、そういう背景があるからだ。
「いいのいいの。前にも言ったでしょう?ただもてなされるのもつまらないから、どうせなら新しい楽しみが欲しいって」
 少し前、この海恵堂に人間を迎えて海恵堂の信仰と乙姫の享楽を賭けた宴が行われた。海の姉妹を生み出しての人間試しである、その時にも乙姫は同じような話をしていたのだ。
「それに"余計な入れ知恵"をして海琴をその気にさせたのも私だし」
「乙姫様、さっきの私の会話を聞いていたうえに、少し根に持ってますね」
「まぁまぁ、細かいことはさておき…私の意見はどうかな?」
 恵は少し考える。
 今までの乙姫の行動の事もある、もしかしたら乙姫は既に頭の中でこの計画の全容を組み立てていて、それを実現させる為に自分達を動かしているのかもしれない。実際、人間をもてなした時にその片鱗は見ている。もし、自分の考えが当たっているのなら…
「…はぁ、わかりました。それでは新しい海恵堂の土地探しは乙姫様にお願いいたします」
「おっけー!それなら直ぐ現世に行って探してくるね!」
 恵の返事を全て聞くより早く、乙姫は部屋を飛び出して行った。呼び止める暇も無く飛び出していった乙姫に、恵も香澄も唖然としてしまっていた。
「…相変わらず、思い通りの計画に対しては手が早いわね。うちの乙姫様は」
「すぐ行動できる良い上司じゃないか」
「あの方はお客様よ。それにあの方の場合、そんなに単純な考えじゃなさそうだから素直に喜べないわ」
 恵は警戒していた。乙姫がこうして最初から計画を練っているということは、自分達が考えていない策略があることを。
 しかし、それを訝しがっていても自分達の考えの中では答えは出ないので、不安を抱えながらも駆け出していった乙姫を見送るしか出来なかった。去り際の乙姫を見送りながら、恵はとりあえず建築に関する資料を探そうと机の上の資料を片付け…









「あ、そうだ恵」



「」



「ひゃゎっ!?」
 机に向かった恵の目の前に、今しがた部屋を出て行った乙姫の顔が姿を現して、恵は思わぬ奇声を発してしまった。
「どうせなら海恵堂の住人を一人借りて行きたいんだけどいいかな?」
「へ…あ、はぁ。それはまぁ…」
「额…啊,哈啊。那个吗…」
 乙姫の出現に呆気に取られた恵は、乙姫の話をただただ鵜呑みにするしかなかった。
「ありがと。それじゃあ誰か一人連れて行くね。あぁそれと…」
 恵の話を受けてもう一度部屋を立ち去ろうとした乙姫がゆっくりと恵の方を向いて言葉を添える。
「なんでしょう…?」
「…あまり私の詮索をしないほうがいいよ?」
「…かしこまりました」
 特に、何が変わっているというわけではなく、さっきまでと同じ飄々とした表情で話しかける乙姫。しかし、それが絶対的な牽制であることは恵にも香澄にも、容易に察しが付いた。