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東方海恵堂~Marine Benefit./海恵堂異聞:Migration to the conceptual sea./海探抄/之八

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< 之七   海探抄   之九 >

パン!


「はい、お疲れさま」
 春慶さんの最後の一射が私の脇を掠めて、そのまま観客も私たちも押し黙る。そして、静寂のなかで春慶さんが手を叩いてそう言った。
「これで私の攻撃も時間切れ。貴女は全部かわし切った。これは私の敗けでしょうねぇ」
 そして、続いて出た春慶さんの言葉に、周りの妖精がワッとどよめいた。
ニンゲンカッタノー?

シュンケイサママケチャッター

ニンゲンツヨイネー
 またも、人間に理解できそうなそうでも無いような言葉で観客妖精が口々に言い合っている。とりあえず、この一戦が終了したと言うことに安堵して、張っていた背筋を緩めた。しかし、私の中では納得のいかない気持ちがもやもやと漂っていた。それというのも…
 春慶さんは能力を使っていません。
 春慶さんの攻撃…七色の水弾を散らす様子は圧倒的に鮮やかでした。それこそ見とれるような極彩色の弾幕ともいえるでしょう。ですが、鮮やかな無数の弾幕が繰り広げられただけで、鈴竹さんの衝撃や天平ちゃんの振動みたいな特別な能力の雰囲気が全くしませんでした。
 そして何よりも、春慶さんの攻撃が、私を狙ってこなかった…いえ、より悪し様に言うのなら"攻撃は私を避けるように展開されていた"とさえ感じられる程に隙が多かったのです。
「春慶さん」
 冷静に、だけど軽んじられたことに対するどこか暗い感情を含ませて春慶さんに当たる。勝負の熱も冷めやらない海恵堂の大客間で、春慶さんは私の様子を察してか、ばつの悪そうな顔をしてあさっての方向を向いた。
「あー………うん、そうね…ごめんなさいね。流石に今の貴女とは本気では戦えないのよ」
「それは、どういう………」
 煮え切らない答えに、虚を掴む手を強く握り締める。あれだけ盛り上げて、私に対して色々と嘯いておいて、
「まぁ、色々と思う所はあるかもしれないけど、試合は勝ちで、貴女は先に進める。今回はそれで勘弁してくれないかしら?」
「むぅ………」
 謝辞を告げると共に手を合わせて申し訳なさそうにする春慶さん。申し訳なさそうな春慶さんの顔に、私の中の不満が行き場を失ってしまった感じがします。
 つまり、私はこの試合には勝ったけれど春慶さんとの勝負には勝つどころか土俵にすら入ることはなかったと言う結果です。確かに今まで妖怪と対峙した事も、綿津見様に直接力をお借りした事もありませんでしたが、そりゃぁ戦ったことはありませんでしたが………
「まぁ落ち込まないでよ。貴女、天平との勝負でようやく戦い方を覚えたんでしょう?ようやく立つことの出来るようになった赤子が、100m走で世界記録を出すことは出来ないってものよ」
「言いたい事はわかりますが…」
「それに、貴女が十分な力を備えたのなら、私たちの誰も貴女には勝てないでしょうし」
「それって、どういう意味ですか?」
「ふふっ、それは次でわかるわよ」
 そう言って私の背中をポンポンと叩く。とにもかくにも、春慶さんに勝ったので先に進めと言うことなのでしょう。


………

「つくしっ!」
 妖精が勝負の熱を感じつつ海恵堂の大客間から去り行く中、天平ちゃんが妖精の群れの中から飛び出してきた。
「凄かったし!つくし、ちゃんと戦えてたし!」
「あ、うん。ありがとうございます」
 手を広げて子どものようにバタバタさせる背格好の近い天平ちゃんに、今まで渦巻いていた感情が和らぐ。何故だか天平ちゃんを見てると安心します。
 そんな風景を端で見ていた春慶さんが天平ちゃんの後ろにやってきて、天平ちゃんのさらさらした金色の髪に手を添えた。
「ぉぅ」
「天平は随分貴女の事が気に入っているようだね。これならきっと大丈夫かしら?」
「えっ、何がですか?」
 そう春慶さんに聞くと、春慶さんは頭を撫でていた天平ちゃんの腰に手をやって…


ヒョイ


「な゛っ!?」
「さて、それじゃ天平も確保したことだし、私たちのお姉"海 京雅"の所に行きましょうか!」
 腰元から持ち上げて、直ぐ様腰に手を回されて、天平ちゃんは犬のように春慶さんの脇に抱え上げられた。
「とりあえず、天平には保険をかけておかないとねぇ。一度は屋敷の中を散々逃げ回った前科があるから」
「「やーー!離してー!アタシ今日は逃げないしー!!つくしと一緒にいくしーーー!」
 捕まえられて手足をバタつかせてもがく天平ちゃん。後ろについていた私からは、やっぱりスカートがひらめいています。
「信用できないわねぇ…また色々言ってお姉のお仕置きを逃れようと…」
「アタシ、京雅お姉は怖いけど、怖いよりつくしの活躍を見たいし!アタシたちのみ………」


















"おっと、そこまででやんすよ、天平?"















「ひぃっ………!!」
 天平ちゃんの言葉を聞いていたと思ったら、突如として姿なき何者かの声が聞こえてきて、天平ちゃんは春慶さんに抱えられたままビクッ!と跳ねた。私と天平ちゃんと、恐らく春慶さんにも聞こえてきているだろうそれは、独特な話ぶりだが圧倒的に威圧感のある言葉だった。そして、先に行くかどうかとうろたえていると、
「おっと」
 春慶さんの手を離れた天平ちゃんが私の近くまで来て"底の見えない黒色"のまん丸な目で私を見つめた。
「………」
「ん?天平ちゃん、どうし………」


 違う。


 天平ちゃんが私を見ているけれど、天平ちゃんは私を見ていない。言葉にしてみると意味が通じませんが、明らかにその視線は今までの天平ちゃんと違う。"目だけ"が天平ちゃんではない…?
「その目は、誰の目ですか………?」
「あ、あぁ…………」


"っとぉ、よく見破りござんしたな。さすがここまでいらしただけのことはありやす。そんならそのまま奥へ進んでくんなませ。春慶、せっかくだから案内たのんますよ"


「はいはい、ちょっと待っててね~」
 何処から…誰から聞こえているのかも分からない声に飄々と返事をして、春慶さんは大客間の片隅、私たちが入ってきた大扉の左に構えていた扉を開ける。
「さて、天平の怒られ案件が一つ増えたかしら?」
「まだ何も言ってないし………」
「それじゃあつくしさん。ここから更に上ります。その間は私が次の場所まで御案内しましょう、ね?」
 ウインク付きの一言に、何は無くともついて来いという意味が込められていることを無意識に理解して、私は春慶さんと天平ちゃんの背中を追いかけるように足を進めた。