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東方海恵堂~Marine Benefit./海恵堂異聞:Migration to the conceptual sea./海探抄/之四

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< 之三   海探抄   之五 >

「どーお?アタシの振動弾、こわい?ねぇこわい?いひひ」


 巨大な海恵堂の建物を背に、天平ちゃんは移動もせず攻撃を放ち続ける。私はというと、2回の戦闘で培ったのでしょう回避の能力で、とりあえず天平ちゃんの放つ弾幕を回避し続けています。
 天平ちゃんの言う微振動の弾とは、球の形をした細かな振動の空間になっていて、それに触れると破砕・発熱・耳鳴りなどのダメージが現われます。今の所、服の裾が少し焦げただけで済んでいますが、その代わり…
「アタシこそが海恵堂イチの門番だしっ!ここから先に人間なんて絶対通さないし!」
(あぁ、また串焼きのお店が…)
 得意げに話す天平ちゃんを他所に、私は自分が避けた振動弾が、大回廊に立ち並ぶ建物を少しずつ破壊している様子に気が行ってしまいます。やっぱり、天平ちゃんは…
「さぁっ!逃げてるだけじゃつまんないし!あなたもアタシに何か撃ってみるといいし!ま、人間の攻撃なんて人魚のアタシ達には痛くもかゆくも無いけどね!いひひ」
 そう、天平ちゃんは恐らく単純なんです。
 誰も馬鹿だとは言っていません。
 天平ちゃんは、振動弾を放つ以外の攻撃を一切してきていません。つまり、手加減にせよ力の限界にせよ、天平ちゃんにはこれ以上の複雑な攻撃は出来ないと考える事が出来ます。つまり、こうして攻撃を避けながら、向こうが根負けするまで待っていればそれで片付くかもしれません。しかし、攻撃を避けながら天平ちゃんの様子を窺っていると、その天平ちゃんが何かを思いついたように手をポンと叩いて、私の顔を見て不遜な笑みを浮かべてきた。
「ねぇねぇ?もしかしてこのままずっと逃げようとか思っているし?それは無理だしぃ♪だってアタシはこの攻撃を永遠にだって続けられるんだし。もしあなたが永遠に逃げたければそれでもいいし?」
「………」
 考えを読まれた事を悟られないように口を噤む。やっぱりその辺は気付かれますよね、所詮は浅知恵でした。
「むー…なんか久しぶりの人間なのにつまんないしー。前までに来た人間は狂ったようにアタシに向かってきてたのにぃ…」
「………ん?」
 けろっと表情を変えて、唐突につまらなそうな表情に変化した天平ちゃんの言葉に、ふとある疑問が浮かんだ。そういえば、この海の姉妹と出くわして挑まざるをえなくなった人間は、私一人ではない筈…でもその様子は正しくは伝えられておらず、ぼんやりとしている。それじゃあ、挑んできた人たちはどうなっているのか………
「一つ聞かせてください」
「なんだし?」
「あなたと戦った人間は、どうなったんですか?」
「なんだ、そんなことだし?そんなの………」
 そこまで言って、一瞬目を瞑った天平ちゃんの目つきが変わって"黒色の瞳"が不敵に語る。






「"妖怪が人間にすることくらい、分かるでやんしょ?"」






「っ………!!」
 その一言に、私は背筋を通る悪寒を感じた。そして、考えるより先に、身体が天平ちゃんに向かって一直線に進んでいった。
 頭の中で、気を落ち着けるように諭す綿津見様の言葉がぐるぐると巡っていましたが、それを聞き取る余裕も無いほどに、私は真っ直ぐ天平ちゃんを目指す。
「おぉ!なんかわかんないけどそれでこそ人間だしっ!さぁ、あなたは負ける?負けない?いひひっ…!」
 一方で、余裕を浮かべた天平ちゃんが私を十分にひきつけてから自分の目の前に振動弾を張り巡らせる。さながら罠と防壁を兼ね備えたそれを、私は直視で捕らえて、それでも前に進む。そして、
(綿津見様、もしよろしければ、目の前の妖怪を打ち倒す術を私に貸していただけませんか?出世払いで)
 私の言葉に呼応するように、綿津見様は私の右手に大幣を与え、その握り手の樹木の感触を感じた私は、直ぐ様それを目の前に振るった。



パキン!!



「ひゃうっ!?」
 その直後、天平ちゃんの正面を守っていた振動弾の壁がガラスの砕けるように粉々に飛び散る。そして、矢継ぎ早に天平ちゃん目掛けて振るった大幣を、ほぼ反射に近い動きで天平ちゃんが回避する。
「な、何だし…!?あなた、何者だしっ!?」
「申し遅れました、私は"檍原 つくし"…町の学生兼現人神です」
 ここに来て、明確に焦りを見せる天平ちゃんに、私は冷静に自分の身辺を明かす。深海の水温で少し頭は冷えた。だけど、目の前の相手が人間に害を為したのなら、神を纏う身として許してはおけません。
「あらひとがみ…?あわきはら………?」
「この大幣のおかげで、私にも妖怪と戦う手段が出来たようです。それじゃあ天平ちゃんが言っていたように、私も攻撃をさせてもらいます!」
 一つ意気込んで、私はもう一度天平ちゃんに向かう。しかし、天平ちゃんは、はっきり分かるほどに狼狽えていて、背を向けながら私に振動弾を浴びせようとする。
「く…来るんじゃないし!に、人間のくせにぃっ!!」
 明らかに狙いの逸れている弾幕、私を狙っているのかそうではないのか分からない攻撃に、いつ当たるかとハラハラしながら、少しずつ天平ちゃんとの距離を詰めていく。そして、方向も何も無い無軌道な振動弾は、回廊の建物だけではなく、整った石畳も白熱色の灯篭も何もかもを巻き添えにして破壊していく。あまり長引くと、この綺麗な景色も危ないですが、うかつに近づいては危険すぎます。しかし、そうやって攻めあぐねていると、
「…………ひっ!」
 逃げまわっていた天平ちゃんが急にビクッと背を伸ばしてその場に立ち止まる。そして、全ての攻撃がぴたっと止んで、私はその隙を逃さずに一気に天平ちゃんとの距離を詰めた。
「あぁっ!!」
「油断しましたね、これで私の勝ちですっ…多分!」
 そう言って、私は天平ちゃんの胸元に大幣をあてがって綿津見様に念を送る。


ドドドドドドドドドドドド……!!!


 頭の中で声がしたと同時に、私の手元からとてつもなく激しい水流が発生して、眼前に居た天平ちゃんを思いっきり押し流した。
「あ…あぁ……あ…うあーーっ!!!」
 大量の泡を含んだ激しい水流に押し流された天平ちゃんは、回廊の奥の奥まで飛ばされていき、ついには海恵堂の建物の方まで押し流されていった。それと同時に、水流に巻き込まれた回廊の建物の残骸が向こうまで流されましたが………まぁ、それはそれです。はい。


……………


 色々と破壊してしまった物騒な勝負が一段落ついて、これからどうすればいいのかと考えながら、私は一番目立つ建物"海恵堂"らしい建物を目指して進んでいます。しかし見た目に反してずいぶんと距離があるので中々海恵堂まではたどり着きません。
 それに、さっき吹き飛ばされた天平ちゃんの姿も見当たらないので、この先どうすればいいのかを教えてもらわないとなんともなりません。
「さて………天平ちゃーん…?っと、おや」
 また迎撃が来ないかと警戒しながら天平ちゃんを探していると、ついに巨大な龍宮城こと"海恵堂"の扉にたどり着きました。
「わぁ…」
 改めて近くで見ると、私の身長の3倍程ある巨大な門扉に驚かされます。そして、お城というより塔に近い高さでそびえるその場所を見上げていると
「………ぅ」
 扉のそばでうずくまっていた天平ちゃんを発見しました。
「あのー」
「………ぃ」
「えっ、」
「ごめんなさい………きょ…がおね………、アタシ……まもれ………う………」
「て、天平………ちゃん?」




「うあぁぁぁぁぁん!!こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛ーーー!!」