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东方儚月抄 ~ Cage in Lunatic Runagate./第三话/中日对照
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浄土の竜宮城 | 净土龙宫城 |
不純物を含まない月の風が音も無く海面を揺らす。風以外に水面を乱す物は何もない。目の前の海には何の生物も棲んでいないのだ。 | 不含有任何杂质的月之风无声地使海面荡起波纹。除了风以外再没有其他搅乱水面的事物。眼前的海中没有任何生物栖息。 |
地上の生命は海から生まれたという。気が遠くなる程の長い時間、生き残りを賭けた生命戦争が繰り広げられた。 | 据说,地上的生命是从海中产生的,在漫长的时光中,赌上生存权的生命战争不断重复着。 |
他を圧倒する為に体を大きくする生物、酸素を利用して素早く動く生物、新天地を求め地上へと進出する生物、地上から空を目指す生物……様々な形の勝者が現れ始めた。海は生命の源であり最大の戦場でもあった。そんな歴戦の勝者である海の生物に穢れが無い筈も無い。 | 为了压倒其它生物而将体形变大的生物、利用氧气迅速行动的生物、追求新天地而来到地上的生物、在地上以空中为目标的生物……各种形态的胜利者开始出现。海洋作为生命的源泉曾经也是最大的战场。身经百战的胜利者——海洋生物,是不会没有污秽的。 |
だが月の都には穢れのある者は殆どいない。だから目の前の海には何の生物も棲んでいないのだ。如何なる海の生物も月に移り住む事は適わなかったのである。そう、この海は何一つ穢れていない、ただ一点だけ、水面に映っている青い星の場所を除いて——。 | 可是,在月之都几乎没有身染污秽的人,所以,眼前的大海里,不存在任何生物。任何海洋生物都不适合移居到月球。是的,这片海洋没有一丝污秽,仅仅除了一点,除了那倒映在水面上的蓝色行星的位置以外—— |
「お姉様? 静かの海に何か見えましたか? 最近、よくこの海を見に来ているようですが……」 | “姐姐?静海里看到什么了吗?最近,你经常来看这片海的样子……” |
「いいえ。今日も何も起こりませんでしたわ」 | “没什么,今天也没有发生什么啊。” |
私がそう答えると妹の | 我这样回答着,妹妹绵月依姬露出了担忧的神色。 |
「最近、兎達の間に不穏な噂が流れているから……私達も行動を慎重に行わないと」 | “最近,兔子们之间产生了不好的流言……所以,我们的行动也必须谨慎。” |
「大丈夫よ、何の心配もいらないわ」 | “没事的,什么都不用担心。” |
「いいえ、私達は地上の民に手を貸しているんじゃないかと疑われているのです。何故かというと……」 | “不是的,有人怀疑我们帮助地上人。至于为什么……” |
「私の能力の所為って事かしら?」 | “你想说是因为我的能力?” |
「ええまぁ、それも有るんですが……どちらかというとお姉様の行動が怪しいからじゃないでしょうか」 | “唔,算是吧,虽然也有这部分原因……要说为什么的话还是因为姐姐最近的行为太古怪的原因吧。” |
「私は海を見ているだけなんだけどねぇ」 | “我只是来看大海而已啊。” |
「海を見てるだけって、それが怪しい行動だと思われるのです。そんな自由に行動されると……何れ兎達に | “还说只是来看大海,你那就让人觉得是古怪的行为了啊。再这么随便行动的话……说不定什么时候会被兔子们问鼎的轻重哦!(注:有地位的人被怀疑是否具有相符的资格。)” |
「私は最初から重くはないけどね。大丈夫、私達には八意様から頂いた未来があるんだから」 | “我本来就不重啊。没事的,我们有八意大人赐予的未来。” |
そう言った私ではあったが、風に僅かではあるが穢れが含まれている事に気付いていた。私——海と山を繋ぐ事が出来る月の姫、 | 虽然我这么说,但我能察觉风中依稀带有污秽。我感受到了——只有能够将海与山连接的月之公主绵月丰姬才能看到的异变。 |
僅かの穢れは気の所為なのか、それとも密かに穢れを持ち込んでいる者が存在するのか。もしくは月の都で良からぬ事を考えている者が居るのか……。 | 依稀的污秽是心理作用吗,还是说,有人偷偷把地上的污秽带了进来,又或者,月之都里有人策划着某种阴谋…… |
依姫には余計な心配をかけたくなかったのでその事は伝えず、私達は静かの海を後にした。 | 由于不想让依姬过多地担心,我并没有把这个告诉她。随后,我们离开了静海。 |
月面が荒涼とした世界だと誰が言ったのだろう。時には生き物を苦しめる事もある季節も存在せず、一年中春の暖かさ、夏の活気の良さ、秋の豊かさ、冬の侘しさ、全てを兼ね備えた気候。青い星の下に輝く美しい桃の木。そして兎達の笑顔の絶えない月の都。 | 究竟是谁说月面是一片荒凉的世界呢。没有那时而让生物痛苦的季节,一年中总是兼有春季的温暖、夏日的活力、秋天的丰收、冬日的寂静的气候。在蓝色的星球下光辉美丽的桃树。还有充满了兔子们的笑声的月之都。 |
私達が都の道を歩いているといつもの様に兎達が挨拶をしてくる。兎達は道ばたで将棋を楽しんだり、お茶を飲んでいたり、昼寝をしていたりしている。私達も笑顔で挨拶を返しつつも、この兎達はちゃんと自分の仕事をしているのか疑問に思った。 | 我们走在都城的道路上,兔子们和平时一样前来问候。兔子们有的在路边下将棋,有的在饮茶,有的在睡午觉。我们一边带着笑脸向兔子们回礼,同时也对这些兔子们究竟有没有好好地做着自己的工作感到怀疑。 |
月の兎にはそれぞれ仕事の担当が割り当てられている。一番多いのが農作物を管理する兎であるが、他にも薬搗き、掃除、月の都の警備等々、多くの仕事が兎達に任されている。 | 月兔都有各自负责的工作,其中最多的是管理农作物的兔子,而其它诸如捣药、扫除、月之都的警备等工作,许多的工作都交给了兔子们去做。 |
我が綿月家は地上の監視を担っているので、うちで飼っている兎は月の使者であり、いざとなれば地上の者とも戦えるように鍛えられている……筈である。 | 我们绵月家由于承担着监视地上的职责,所以家中饲养的兔子是月之使者,这些兔子还受到训练,保证在关键时刻能与地上人进行交战……应该是这样的。 |
月の都は完成された高度な都市であった。物質的、技術的な豊かさはとうの昔に満たされており、精神的な豊かさを高める事が最も重要であるとされていた。勿論それは月の民にとっての話であり、月の兎達はその為に働かなければいけないのだが。 | 月之都是相当完善的都市。早在很久以前就已经在物质上、技术上达到充裕的境界,现在最重要的是提高精神上的充足感。当然,这是针对月之民而言,而月兔们必须为此努力工作。 |
ただ、それを実現する為に必要な事は、穢れた物の存在を決して認めない事だった。万が一月の民が穢れを負ってしまうと地上に落とされる。月にとって地上は大きな監獄であった。そして地上に落とされた罪人を監視するのが私達、綿月姉妹の仕事である。 | 只是,为了实现这个目标而必须做的,就是绝对不容许污秽之物存在。月之民一旦被污秽影响,就将被放逐到地上。对月球而言,地上就是一个大监狱,而监视被放逐到地上的罪人,就是我们绵月姐妹的工作。 |
私達は屋敷に戻り、桃の葉を浮かべたお茶を飲みながら今後の対策を練る事にした。 | 我们回到宅邸,一边品尝漂着桃叶的清茶一边开始商量今后的对策。 |
「困ったわね。最近の噂には」 | “真头疼呢。最近的流言。” |
私がそう言うと、依姫は何を言うかといった表情で「お姉様が自由に行動しすぎるからじゃないですか?」と言った。 | 我这样一说之后,依姬以一副像是在问我在说什么的表情回答道:”还不是因为姐姐的行动太随便了吗?” |
最近月の兎達の間で流行っている噂がある。表の月に刺さっていた地上人の旗——我々はアポロの旗と呼んでいる旗が、いつの間にか無くなっていた事から噂は始まったらしい。 | 最近。月兔之间产生了流言。似乎是在插在表之月上的地上人之旗——就是我们说的阿波罗之旗失踪之后,流言才开始的。 |
その噂とは月の都の保安に関する物だった。「地上から誰かが攻めてくる」とか「月の都に反逆者が居る」だとか、他愛のない物ばかりだったが、純粋で噂好きな月の兎達はそれを信じていた。 | 流言和月之都的治安相关。比如“有地上人要攻上来了”或者“月之都有反叛者”之类,虽然都是些毫无来由的话,但单纯而喜欢流言的月兔们却相信了。 |
地上の敵が来るとしても反逆者だとしても、まず疑われるのが私達である。私達は職務と能力の関係故に、月の民の中でも最も地上との距離が近いからだ。特に私達は半永久的に地上に落とされた特級罪人、八意様に育てられた数少ない生き残りである。今では私達は八意様を探しに行かなくなってしまったし、疑われても仕方がない。 | 不管是地上要来敌人也好还是有反叛者也好,最先受到怀疑的就是我们。由于我们的职务和能力的关系,即使在月之民中,我们和地上的距离也是最近的。特别是,我们是被半永久流放到地上的特级罪人八意大人养育的少数幸存者。现在,我们不再去寻找八意大人,受到怀疑也是无可奈何的。 |
「噂なんて七十五日もすれば消える筈なんだけど……もうかなりの時間経っているのに消えないから、そろそろ私達は潔白だと皆に見せた方が」 | “流言过了七十五天就应该会消失2……但这已经过了好些时日都没消失了,我想,我们差不多应该做点什么证明自己是清白的了吧。” |
「依姫は心配性ねぇ。兎達が大げさで噂好きなだけでしょう?」 | “依姬就是爱瞎操心。兔子们只不过是喜欢夸张的流言而已吧?” |
流言蜚語が社会を揺るがす事は自明である。だから噂を無視する訳には行かないのだが、逆にそれを利用して社会を纏める事も出来る。私はどんな噂であれ否定するより利用した方が良いと考えている。いたずらに否定すると逆に不信感と混乱を招きかねないからだ。 | 流言蜚语会让社会不稳定,这我是明白的,所以,不能无视流言,但反过来,也可以利用流言来巩固社会。无论什么样的流言,我都认为利用比否定更好。随便否定掉很可能反而会招致不信任感和混乱。 |
「そうは言っても……」 | “就算你这么说……” |
「噂は真実でも虚偽でも構わない。恐らくは虚偽の物ばかりだと思うけど……でも、噂が流れているという事だけは誰が見ても真実なの。私達はその上で行動を選べば良いだけの話。噂は利用出来るのよ」 | “流言是真实还是虚假的,这些都没关系。虽然我认为大多数都是虚伪的……不过,有流言在流传这一点不管在谁看来都是事实。我们只要在那之上选择行动就可以了。流言是可以利用的哦。” |
「でもねぇ、疑われていたらお姉様みたいに自由に行動して気楽に楽しんで……安心して生活なんて出来ないわ」 | “可是,被人怀疑的话我可没办法像姐姐那样自由地行动悠闲地享乐……我都没法安心生活了。” |
「何よ。人を無神経みたいな言い方して」 | “什么嘛。把人说成好像少根筋一样。” |
お茶の時間は終わり、自分達の職務に専念する事になった……と言っても、戦闘要員兎達(しかも最近新しい人員を確保したばかりである)の戦術指南を担当する妹に比べ、地上との通路と使者の兎の先導を担当する私は普段やる事は殆ど無い。精々、私も一緒になって稽古に参加したりする位である。 | 饮茶时间结束,我们开始集中精神进行自己的工作……话虽这么说,与负责对战斗要员兔子们(而且,最近一直都在吸收新成员)进行战术指导的妹妹相比,负责连接通往地上的道路以及引导使者兔的我平时几乎没什么可做的,最多也就是一起参加训练而已。 |
ただ、今は戦闘兎達は緊急事態である為、邪魔をしないように再び静かの海を見に行く事にした。静かの海は月の都の正反対に存在する海である。 | 只是,由于现在战斗兔处于紧急事态中,为了不妨碍她们。我决定再次去静海。静海是存在于月之都背面的海。 |
——何も棲んでいない海は静かに波を揺らしていた。私は海を見ると昔を想像してしまう。 | ——没有任何生物的静海波涛摇曳。看着大海,我开始想象古昔。 |
海で生まれた生命は、生き残りを賭けた長い戦いの末に海は穢れ、そして勝者だけが穢れ無き地上に進出した。 | 在大海中产生的生命长时间进行的赌上生存权的战斗,最终使大海变得污秽,然后只有胜利者走向了没有污秽的地上。 |
陸上ではさらに壮絶な生き残りを賭けた戦いが繰り広げられた。ある者は肉体を強化し弱者を食料にした。またある者は数を増やし食べられながらも子孫を残した。陸上を離れ空に穢れの無い世界を求める者も居た。敵う者は殆ど居なくなったが順応性を失い絶滅した者も居た。地上を諦め再び海に戻る者も居た。勝者はほんの僅かであり、数多くの者は戦いに破れ絶滅した。 | 而在地上,又进行了更加激烈的赌上生存权的战斗,有的强化了肉体,将弱者当作食物;有的增加种族数量,就算被吃掉,子孙也能延续下去;有的离开陆地,在天空寻求没有污秽的世界;也有的尽管没有敌手,却因无法适应环境而灭绝;也有的放弃地上的生括,重返大海。胜利者只是少数,多数都在战斗中灭绝了。 |
生命の歴史は戦いの歴史である。常に勝者を中心に歴史は進む。そんな血塗られた世界だから地上は穢れる一方だった。生き物は本来いつまでも生きる事が出来るのだが、穢れが生き物に寿命を与えた。生命の寿命は短くなる一方だった。 | 生命的历史就是战争的历史。历史总是以胜利者为中心前进着,这样的世界充满了血腥,所以地上污秽越来越多。生物本来能永远生存下去,污秽却赋予了它们寿命。生命的寿命不断缩短。 |
現在、地上は百年以上生きる事の出来る生き物が殆ど居ない世界になってしまった。 | 现在,地上已成为了几乎没有能活过百年以上的生物的世界。 |
しかし穢れが与える寿命の存在に気付いた賢者がいた。その賢者は満月が夜の海の上に映るのを見て、穢れた地上を離れる事を決意したという。 | 可是,曾经有贤者觉察到了这污秽赋予的寿命的存在,这个贤者看着满月倒映在夜晚的海面上,决定离开这污秽的地上。 |
海から地上へ、地上から空へ移り住むかの様に、賢者は地上から月に移り住んだのだ。その方が月の都の開祖であり、夜と月の都の王、 | 如同从大海来到地上,从地上来到天空一样,贤者从地上移居到了月球中。这个贤者是月之都的开山鼻祖,也就是夜与月之都之王,月夜见大人。 |
月夜見様は自分の親族で信頼の置ける者をつれて月に移り住んだ。月は全く穢れて居なかった。その結果、月に移り住んだ生き物は寿命を捨てた。寿命が無くなるという事は、生きても死んでもいないという意味である。それは月とは穢れの無い浄土、つまり死後の世界と同じだったのかも知れない。 | 月夜见大人带着自己的亲族中值得信赖之人来到了月球。月球完全没有污秽,结果,移居到月球的人都舍弃了寿命。没有寿命,意味着没有生与死,月球,也许与无秽净土,也就是死后的世界相同。 |
勿論、月の民も月の兎も不老不死ではない為、事故や戦いによって死ぬ事はあるだろう。そうでなくても月の都に住んでいる民も、僅かにだが穢れを持っている。私達だって何れ寿命で死ぬ運命にあるのかも知れない。 | 当然,月之民和月兔都并非不老不死,她们也会因为事故和战争而死去。就算不是这样,居住在月之都的人们身上也都微微带有一丝的污秽。即便是我们,也许同样有着因寿命而死的命运。 |
私達の師匠は月夜見様よりも長く生きている。月夜見様が月に移り住んで都を建てる時に最も頼りにしたのが、私達の師匠——八意様である。 | 我们的师父比月夜见大人活得更久。月夜见大人在移居到月球后,建立都市时最依靠的,就是我们的师父——八意大人。 |
「……お姉様。また海を見ていたのですか? そんなに海が気になるって事は、やっぱり何かあったんじゃないですか?」 | “……姐姐,你又来看海了吗?这么在意大海,果然是有什么事情发生了吧?” |
依姫の呼ぶ声がした。考え事をしていたら随分と時間が経っていたみたいだ。 | 依姬向我招呼道。我思考着问题,不知不觉已经过了这么长的时间。 |
「いや、八意様の手紙の内容が本当だとすれば、まだ変化は無い筈だけどね」 | “不,如果八意大人的信的内容是真的,那现在应该还没有变化。” |
「それなら良いんですけど……」 | “那就好……” |
「地上から誰かが攻めてくるかも知れないって考えながら海を見ていたら、昔を思い出しちゃってね」 | “我一边思考着可能有人从地上攻来的事,一边看着大海,想起了往昔。” |
「昔って……。もしかして八意様が裏切って地上にお隠れになられた時の話ですか?」 | “往昔……。你是指八意大人叛逃到地上躲起来的时候的事吗?” |
「ううんもっと昔。依姫は覚えていないかな?」 | “不,是更遥远的往昔,依姬你大概不记得了吧?” |
「もっと昔って、千年以上前の話? 流石に簡単には思い出せないですが……」 | “更遥远的往昔,就是一千多年以前的事吗?那样的话,确实不能很容易就记起来……” |
「私は千五百年以上前の話でも思い出せますよ。ほら、地上の人間が静かの海から亀に乗って現われたのを」 | “我可是能想起一千五百多年前的事哦。想想看,地上之人骑龟从静海而来的事。” |
今、私達は静かの月の海の前にいる。月では海は地上と最も近い場所である。その為、稀に地上の生き物が紛れ込む事があるのだ。 | 现在,我们面对着静海。在月球上,海是距地上最近的地方,因此,偶尔会有地上的生物闯进去。 |
地上ではその現象を神隠しと呼んでいる。だが、神隠しは月の都に来る事だけを指す訳ではない。過去、未来、地獄、天界等、様々な世界に迷い込む事を指す。何故その様な事が起こるのかを、八意様は昔、次のように説明した。 | 在地上,这种现象被称为神隐。不过,神隐不单是指来到月之都,同样也指迷失到过去、未来、地狱、天界等各种世界。八意大人曾经对我们解释过这种现象产生的原因。 |
“量子的に物事を見た場合、起こり得る事象は必ず起こります。何故なら量子の世界では確率的に事象が決まるのに、その情報を完全に捉える事が出来ないからです。結果を求められない確率で起こる事象とは、如何なる低い確率であろうと0ではない限り存在する事象なのです。この世は量子から出来ている以上、地上から月に生き物が偶然紛れ込むなんて珍しい事ではありません。それに私達だってそうやって地上から月に移り住んだのですから” | “从量子的角度观察事物的话,会发生的事总会发生,因为,在量子的世界尽管按概率决定事象,但其信息却完全无法捕捉,因无法追求结果的概率产生的事象,就算概率如何低,只要不是0,就是肯定存在的。既然这个世界是量子构成的,那么有生物偶然从地上闯进月球也不是什么稀奇的事。况且我们不就是那样移居到月球的吗?” |
私はいち早く八意様の教えを理解し、今では地上と月を結びつけ、自由に行き来できる数少ない能力者である。 | 我很快就理解了八意大人的教诲,现在已经成为了能够连接地上与月球并自由来往的少数能力者之一。 |
月の民は昔から世界が可能性で出来ている事、どんな事でも起こりえる事に気付いていた。だからこそ、地上から月に移動する事が出来たのだ。余談になるが現在の地上の人間の科学力の発展は目覚ましく、数十年前からミクロの世界は可能性で出来ている事に気付いているという。その事実は月夜見様を驚愕させた。何故なら月の民が一番恐れている事は、地上の人間が月に来る事だからである。今のところ、表の月に原始的なロケットを飛ばす程度で済んでいるが、油断は出来ないだろう。 | 月之民很早以前就意识到世界由可能性构成,无论什么事都可能发生,正因为这样,才能从地上转移到月球。说点不相关的话,现在地上人的科学技术发展非常显著,几十年前就已经意识到微观的世界是由可能性构成的了。这个事实也让月夜见大人感到震惊,因为,月之民最害怕的,就是地上人类到达月球。现在虽然只能把原始的火箭发射到表之月,但绝对不能疏忽。 |
「千五百年以上前? 地上の人間が現われた事? 亀に乗ってって、えーと……」 | “一千五百多年以前?地上人出现的事?骑龟,我想想……” |
「大分昔の話だからね。 | “毕竟是很久以前的事了啊。水江浦岛子3来我们这里,也是比师父大人去地上更早的事了……” |
それはもう千五百年以上は昔の話であるが、水江浦嶋子と名乗る人物が水に映った青い星から出てきた事があった。 | 那是一千五百多年以前的往事了,自称水江浦岛子的人从映在海面上的蓝色星球来到这里。 |
神隠しに遭った大抵の人間はすぐにパニック状態になり、自分の理解出来る世界に帰りたがるものである。だから見つけ次第私の力ですぐに帰してやる事にしていた。 | 遭遇神隐的人大多数都会立刻陷入恐慌,希望回到自己能理解的世界。因此只要一发现就会用我的能力马上将其送还。 |
だが、彼は違った。栄華を極めた月の都を見るなり地上に帰る事も忘れ、もう少しここに居たいと言い始めた。彼はもしかしたら頭が少し弱かったのかも知れない。ただ私も地上の人間に興味があったので、八意様には内緒でうちの屋敷に匿う事になった。 | 但是,他却不同。在目睹了繁华的月之都之后,将地上的事情抛到了脑后,并说希望在这里逗留一段时间。他搞不好脑子有些迟钝也说不定。只不过当时我对地上人也很有兴趣,于是决定瞒着八意大人把他藏在自己家中。 |
彼の話はこうだった。彼の仕事は漁であった。いつものように漁に出かけていると、背中が五色に彩られた不思議な亀が泳いでいるのを見つけた。余りにも珍しく美しかったので、どうしてもそれを捕まえたいと思い舟で後を追った。陸が見えないくらい沖に出た辺りで、海に飛び込みようやく捕まえた。 | 他的故事是这样的。他的职业是一名渔人,那天像往常一样出去捕鱼的时候看到一只背壳五彩斑斓,让人很不可思议的乌龟在水中游泳。由于这龟实在珍稀和美丽,他非常想捕获这只龟,于是驾舟追在其后。到了已经完全看不到陆地的海中央,他跳下去,终于将龟抓住了。 |
しかし、近くにあったはずの自分の舟が何故か見あたらず、途方に暮れて亀の背中に捕まって彷徨っていたのだと言う。その為、いつの間にか自分の居た世界と異なる世界に紛れ込んでいる事に気付いていなかった様子で、ようやく辿り着いた月の都を海の向こうの国だと勘違いしていた。海の向こうの国——実際は月の都だったのだが、それが蓬莱国だと思い込んでいたのだ。 | 可是,停在附近的舟却不知为什么,消失了。无奈之下,他只好抓着龟背随波逐流了。因此,他似乎没有注意到自己不知什么时候开始已经混入了异世界当中,还把最后到达的月之都错当成了大海对面的国家。大海对面的国家——实际上是月之都,但他一直认为就是蓬莱之国。 |
私はそれは違うと訂正した。“お前が今居る場所は蓬莱国などではなく海底に存在する『竜宮城』である”と嘘を教えた。五色の亀は迷子になっていた私のペットであり、捜していたら貴方が背中に捕まっていた、という事にした。 | 我指出了他的错误,骗他说:“你现在所在的地方不是蓬莱国而是位于海底的‘龙宫城’”。并且还说那个五色的乌龟是我迷路的宠物,找到它的时候就发现你紧紧抓着它的背壳。 |
嘘を教えたのは地上の人間が月の都への興味を持ち、権力者が月の都を目指す事を恐れたからだ。今思うとこの判断は間違っていたと思う。その間違いは後に八意様の手で修正される事となる。 | 之所以说谎,是因为害怕地上人类对月之都产生兴趣,害怕当权者以月之都为目标。现在想想,那种判断是错的,这种错误在那之后,将由八意大人来改正。 |
浦嶋子は歌って踊る兎達の楽しげな日常を見て、ひどく感動していた。海底はこんなに楽しいものなのかと感心するばかりだった。 | 浦岛子看到载歌载舞的兔子们的快乐生活,非常感动,赞叹海底竟然如此快活。 |
月の都は昼間でも太陽と共に星が見えるのだが、彼はその空を見て疑問に思っていた。“何故、海底の空はこんなに星が見えるのか?”と訊かれたので、それは星ではなく、魚達が毎日躍っている姿なのだと教えた。ここは魚の姿も点に見える程、深い海底なのかとまた感動していた。 | 月之都的白昼能看到太阳和星星同时出现,他看到那样的天空感到很疑惑。“为什么海底的天空能看到这么多星星呢?”,于是我告诉他,那不是星星,而是跃动的鱼儿。他再次感叹这里居然是如此深的海底,连鱼儿都看起来像小不点。 |
そうして、勘違いしたまま浦嶋子は三年ほど月の都で暮らしたのだ。地上の人間でそこまで長く月の都に滞在した者は少ない。だから私はよく覚えていたのだが、依姫にとってはそんなに重要な記憶ではなかったみたいだ。 | 就这样,浦岛子带着误解在月之都住了三年。地上人很少有在月之都待这么长时间的。所以,这件事我记得非常清楚,但对于依姬来说,这并不是什么重要的记忆。 |
「水江浦嶋子? ああ、確かにそんな人間も居たわね。確か、釣り好きな彼もめでたく神になったんでしたっけ?」 | “水江浦岛子?啊,确实有过那样的人,我记得,喜欢钓鱼的他也成了受人景仰的神明吧?” |
彼は三年経って、ようやく家が恋しくなったと言い始めたのだ。普通の人間なら数時間で思いそうな感情を覚えるまで随分と時間がかかったものだ。 | 三年后,他终于说想家了。一般人只需要几个小时就可能产生的感情放到他身上还真是花了不少时间啊。 |
「そうよ。その人間よ。今では彼は | “是的,就是那个人。现在他已经是筒川大明神了哦。一介平庸的渔人也出人头地了呢。” |
一度帰りたいと言い始めたら、もう何を見ても感動しなくなった。帰りたいと駄々を捏ねるだけであった。 | 一旦想回去,无论看到什么,他都不再感动,只是嚷嚷着要回去。 |
私としても帰りたいと言う人間を帰さない理由は無い。そもそも黙って月の都に穢れのある人間を入れていたのだから、ばれる前に帰した方が良い。 | 对我来说,没有不放想回家的人回去的理由。本来,我就是瞒着师父把带有污秽的人类带进月之都的,在事情败露之前,最好把他送回去。 |
だが一つ気がかりな事があった、彼を地上に帰して三年間も何処に行っていたのかを問われれば、彼はここで過ごした経験を語るだろう。そうすれば竜宮城——月の都に興味を持つ者が出てくるかもしれない。それは月の都のピンチを招きかねないのでは無いか。 | 只是,有一件事让我非常在意。他在回到地上之后,被人问起这三年间到了哪里的话,一定会说出在这里的经历吧。那样的话,也许会有人对龙宫城——月之都产生兴趣,那样会不会给月之都带来危机呢。 |
私は八意様に全てを打ち明け、そしてどうすればよいのかを相談した。意外にも八意様は人間を匿っていた事に関しては何も怒りはしなかった。 | 我向八意大人坦白了一切,并询问该怎么办。八意大人意外地没有因藏匿人类的事而对我发火。 |
八意様は即断で“そのような人間は亡き者にするのが一番です。海に出てから三年も姿が見えなければ、地上では死んだ者として扱われてるでしょう。大体、地上から来た生き物を興味半分で匿うからその様な事態に陥ってしまうのですが……”と言った。 | 八意大人迅速决断,说道:“那样的人让其成为亡者是最好的。出海三年渺无音讯的话在地上肯定就被当成已经死亡了。本来嘛,因为你的好奇藏匿地上来的生物才招致了现在这样的事态……”。 |
「そうそう、筒川大明神ね。あんな欲深き凡庸な人間を神として祀っているなんて、私達から見たら滑稽ですけどね」 | “对啊对啊,就是筒川大明神。那种欲望强烈的平凡人类被当作神明供奉起来,在我们看来十分滑稽。” |
「八意様は即断で殺せって仰ってたけど、流石にそれは可哀相だしねぇ」 | “当时八意大人虽然当机立断让我去杀了他,但怎么说那样也太可怜了呢。” |
私は流石に自分が匿った所為という事もあり、とても殺す気にはなれなかった。妹も同様であり、やはり殺す気にはなれなかった。 | 毕竟是因为我自己将他藏起来的缘故,所以无论如何我都下不了手,妹妹也一样,果然下不了手。 |
仕方が無くそれ以外の良い方法は無いのですかと訊いてみた。そうすると八意様は微笑んで“勿論ありますよ、貴方達は優しいのね”と言って、別の案から最善なものを教えてくれた。 | 无奈之下,我只好询问是否还有其他好办法,于是,八意大人微笑着回答“当然有啊,你们真温柔呢!”并把其他方法中最好的办法告诉了我们。 |
別の案とは、『水江浦嶋子を覚えている人間が存在しない時代に送り返す』という物である。つまり、竜宮城と地上では時間の流れが百倍近く違うという事にし、三百年後の地上へ送り返すという物だった。 | 所谓别的办法,就是“把水江浦岛子送到没有记得他的人存在的时代。”也就是说,让他认为龙宫城的时间流动速度与地上的时间流动速度相差近百倍,将他送到三百年后的地上。 |
当時の私達は何故その案が最善なのかはよく判っていなかった。自分の事を知っている人間が誰も居ない世界に送り返されたら、人間は途方に暮れるだろうし、竜宮城の事を皆に言いふらす事には変わりないのではないか。だが、八意様は間違った事を言わないのである。私達は絶対の信頼を置いていた。だからその案を採用する事にした。 | 当时的我们,并不太清楚为什么这个办法最好。被送到没人认识自己的世界的话,那个人一般不也会在无奈之下把龙宫城的事向其他人宣扬吗?不过,八意大人说出的话不会有错,我们绝对信任她,于是照做了。 |
三百年後の地上に送り返す為には、まず彼を | 为了把他送到三百年后的地上,首先必须对他进行 |
「それで、何故お姉様はその話を今?」 | “然后呢,姐姐现在为什么要提起这个呢?” |
「今、地上から同じ様に人間が紛れ込んできたら、私達はどういう行動を取ればいいのかなと思って」 | “因为我在想,现在如果有人从地上闯进这里的话,我们该怎么做呢。” |
かくして水江浦嶋子は、五色の亀に連れられて月の都に紛れ込んでから三年程楽しんだ後、三百年後の地上の世界に戻る事になった。 | 就这样,水江浦岛子被五色的乌龟带着,混入月之都尽兴了三年之后,回到了三百年后的地上世界。 |
彼は砂浜に着いたときから何か違和感を感じていた。白い砂、松の木、青い空、漁をしていた頃と何一つ変わらぬ筈なのに、海風に違和感を覚えた。不安になった浦嶋子は自分の家に戻ったが、家があるはずの場所には何もなく草が生えていた。さらに知人の家を訪ねても、そこに住んでいる者には見覚えはなく、それどころか村の誰一人、浦嶋子の事を知っている人は居なかった。彼は余りの絶望に悲嘆した。 | 他在回到沙滩之后,觉察到了不对劲。白砂、松树、蓝天,一切都和捕渔时的光景一模一样,可是,海风却让他觉察到不对劲。不安的水江浦岛子回到自己的家,发现原本自己的家所在的地方,现在除了杂草以外什么也没有。他又去了熟人的家,住在那里的人他根本没见过,不仅如此,甚至没有一个人认识他。绝望的他只能悲叹。 |
「今なら……すぐに追い返すか殺すと思います。あの頃ほど私達は愚かでは無いですから」 | “现在的话……要么立刻赶走,要么杀掉,我们可不像那时候那样愚蠢。” |
「千五百年前のあの頃ほど優しくない……と?」 | “你是说……不像一千五百年前那么温柔了?” |
物語はそこで終わらない。 | 故事到这里并没有结束。 |
八意様は地上にお隠れになる前に、浦嶋子に手土産として | 八意大人在隐居到地上之前,吩咐我把一个玉匣(注:豪华的饰品盒)当作礼物交给水江浦岛子,并转告他“在地上的生活感到困难时,打开这个玉匣,但如果还想再到龙宫城来,就千万不要打开。” |
あの玉匣には何が入っていたのだろうか。八意様の居ない今となっては、確かめる手段も中身を再現する事も出来ない。 | 那个玉匣里装了什么呢。现在八意大人已经不在这里了,所以,我无法确认,也无法再现里面的东西。 |
どうやら浦嶋子は地上に降りてからすぐに玉匣を開けてしまったようだ。自分を覚えている人が誰も居ない世界に余程絶望したのだろう。泣き叫びながら玉匣を開けた。しかし不幸はまだ終わらなかった。玉匣を開けた彼の肉体はみるみる間に若さを失い、そこに歩くもままならない老体が残された。その玉匣は肉体を老いさせる何かが詰まっていたのだ。 | 水江浦岛子似乎在回到地上不久就打开了玉匣,看来,他对无人记得自己的世界感到相当绝望吧。他哭喊着打开了玉匣,然而不幸并没有结束。打开了玉匣之后,他的肉体立刻丧失了青春,变成了连走路都难以办到的衰老之躯。那个玉匣里,装着能让肉体衰老的某种东西。 |
しかし老人となった事が幸いした。三百年前の話を知っている老人は、村では生き神様の様な扱いを受ける様になった。彼の不思議な話は神の世界の話と信じられ村では伝説となった。当時の人間には彼ほど老いるまで生きられる事は少なく、また文字も読めなかった為、話が出来る老人はもて囃されたのだ。浦嶋子が若い姿のままだったら、ただの与太話だと思われただろう。 | 不过,变成老人是一种幸运。熟悉三百年前的事情的老人,在村子里被当作活神仙对待。他所说的不可思议的故事是被人们相信为神明的世界发生的事,并成为了传说。当时的人类很少有活到他那个年纪的,而且因为不识字,因此,能说这种故事的老人受到了人们的尊敬。如果浦岛子保持着年轻时候的样貌的话,他说的故事一定会被人们当作胡说八道吧。 |
さらに浦嶋子の伝説は時の天皇、 | 浦岛子的传说甚至传到了当时的天皇淳和天皇耳中。淳和天皇在听了浦岛子的龙宫城的故事之后,认为那就是常世之国——蓬莱国,并高度关注。蓬莱国是不老不死之国,当时的当权者都争相寻找。只是,那时候传说开始变得陈腐,蓬莱国的存在也开始受到怀疑,而浦岛子的故事,让天皇喜出望外。 |
淳和天皇の予想は的を射ていたが時は既に遅かった。浦嶋子は一歩も動けぬ程老いており、天皇の遣いが到着してまもなく息を引き取ったのだ。 | 淳和天皇的预想是正确的,但为时已晚。浦岛子是一步都迈不动的衰老之躯,天皇的使者找到他不久之后,他就咽了气。 |
天皇は水江浦嶋子に蓬莱国から帰還した数少ない人間という威徳を認め、彼の為に神社を造らせ、さらに彼に筒川大明神という神号を送った。 | 天皇认为水江浦岛子是少数从蓬莱国归来的人,并为他修建了神社,之后,更赐予他筒川大明神的神号。 |
偶然神隠しにあった水江浦嶋子。彼は神様の仲間入りを果たし、それと同時に蓬莱国——月の都信仰も確固たるものとし、地上の権力者に蓬莱の民の威厳を知らしめたのである。 | 偶然遭遇神隐的水江浦岛子。在他位列神眷的同时,蓬莱国——月之都信仰也巩固了,让地上的当权者见识到了蓬莱之民的威严。 |
お師匠様にはこうなる未来が見えていたのだろうか。愚かな疑問である、当然見えていたのだろう。でなければ、三百年余り眠らせた人工冬眠も老いてしまう玉匣も、ただの戯れとなってしまう。お師匠様は厳しそうに見えて、一番優しかったのである。 | 师父大人是否预见到这样的未来了呢。这是个愚蠢的问题,她当然预见到了,否则,三百年的人工冬眠,以及让人老化的玉匣,都只能视为恶作剧。师父大人虽然看起来很严厉,却是最温柔的人。 |
「今では、何百年も時を超えて未来の世界に行く事を『ウラシマ効果』と呼ぶらしいですわ」 | “现在,人们把跨越上百年的时间来到未来世界的事称为‘浦岛效应’。” |
「神様となり、その上に未だに名前が残っているのであれば彼も幸せでしょう。ねぇ依姫、私達にそこまで先の未来を見通す事が出来るかしら? もうすぐ地上から何者かが現われるかも知れないと言うのに……」 | “成为了神,并名留青史的他,是幸运的吧。依姬,你说我们能不能预见如此遥远的未来呢?很快说不定就会从地上有什么人出现了……” |
私達共通の思い出話を楽しんでいた依姫だったが、少し険しい顔をした。 | 沉浸在我们共同的回忆中的依姬露出了严肃的神情。 |
「私達は八意様が居なくなってから様々な事を学びました」 | “八意大人不在了之后,我们也学习了许多事情。” |
依姫は海の方を見て言葉を続けた。 | 依姬望着大海继续说道。 |
「学んだ事は、私達にはそこまで深い考えを持つ事は出来ない。思慮の浅い優しさは人間も月の民も不幸にすると」 | “学习到的事就是,我们无法思考到那样的深度,而不经思考的温柔,对月之民和人类来说,都是不幸。” |
私は少々強張った依姫の肩に手を掛けた。 | 我把手放到表情有些僵硬的依姬肩上。 |
「ならば、もうすぐ来るであろう人間が攻めてきた時、私達は追い返す事に専念すれば良いのです」 | “那么,假如很快就有人类攻过来的话,那时候我们只要专心将他们赶回去就好。” |
「お姉様……八意様みたいな言い方するのですね」 | “姐姐……你说话的方式有些像八意大人啊。” |
「私の方が年上ですからね」 | “因为我岁数比你大嘛。” |
「って、これだけ永く生きていれば大差ないでしょうに」 | “什么嘛,我们活了这么长时间,没什么太大的差别了吧。” |
「いいえ。年の差は何年、何千年経っても決して変化する事のない事実なのです」 | “不对,年龄的差别,无论过了几年,甚至几千年都不会变化,这是事实。” |
「つまり、お姉様の方が先に隠居するって事ですね。八意様みたいに」 | “也就是说,姐姐你会先于我隐居吧,就像八意大人那样。” |
依姫は少し笑顔になった。私はそれを見て肩から手を離し「ところで、兎達の稽古は万全かしら?」と聞いた。依姫は溜め息を吐いて答えた。 | 依姬的脸上露出了一点笑容。我把手从她肩上拿开,问道:“说起来,兔子们训练顺利吗?”依姬叹了口气,回答道。 |
「ああ、ええ。皆、頑張って居るんですけどね、いかんせん人手不足で……。そういえば新しく入ったレイセンを重点的に稽古付けてるのですが……筋はイマイチです」 | “啊啊,算是吧。大家,确实都很努力,奈何人手不足……说起来,虽然我对新来的Reisen进行了重点训练……但资质一般般。” |
「でしょうねぇ。餅搗き担当の兎なんて歌好きでいい加減でとろい奴が多いから。あんまり戦闘向きじゃ無いかもね」 | “是啊,负责捣年糕的兔子,有很多喜欢唱歌个性散漫笨手笨脚的家伙。确实不太适合战斗呢。” |
「昔のレイセンの方が才能有ったのだけど……今は何処で何をしてるのか」 | “以前那个Reisen要有才能得多……但不知道现在在哪里,又做着什么呢。” |
月の使者担当は月の兎の中でも比較的規律が厳しく、肉体労働で楽ではない。だから逃げ出す兎も少なくないのだ。レイセンとは先の戦争が始まる前に逃げ出した兎である。 | 月之使者这个工作在月兔的工作中相对纪律比较严格,而且是肉体劳动,很不轻松。所以出逃的兔子也不少。所谓Reisen,指的是上次战争开始前逃走的兔子。 |
レイセンは能力的には高かった。簡単に姿を消し、人の心を乱す事が出来た。だが、性格は臆病で自分勝手であった。その性格は戦闘時は致命的であると予想は出来たが、矯正は出来なかった。結果、協調性は低く、実践の前に任務を放棄し地上に逃げてしまったのだ。 | Reisen的能力很强,能够轻易地隐藏身形,并能扰乱人心,只是,性格比较胆小随便。尽管我早就知道那样的性格在战斗中是致命的,但无法进行矫正。结果,由于合作能力差,在实战前她就放弃任务逃到了地上。 |
レイセンを探し出し月に連れ戻す事も私達の仕事ではあるのだが、アレから四十年以上経ってしまい時効とするしか他に無かった。レイセンは地上で人間に捉えられ鍋にされたか、穢れにまみれて月に連れ戻すには適さないと判断した。 | 虽然找出Reisen并把她带回来也是我们的工作,但过了四十多年都没有找到,只能算过期失效了。只能判断Reisen在地上被人类捉住烧成火锅了,或者沾染了地上的污秽而不能带回来。 |
「今のレイセンはセンスも良くないし、少し鈍くさいので心配です」 | “现在的Reisen天分也不好,感觉迟钝,让我很担心。” |
今から三ヶ月程前だろうか、私達の元に傷ついた兎がやってきたのだ。 | 大约在三个月前,一只受伤的兔子来到了我们面前。 |
その兎は餅搗きが嫌で地上に逃げたのだが、そこで八意様から手紙を託され、再び月に戻ってきたのだと言った。八意様捜索を打ち切ってから既に数百年は経っていたのだから、まさか八意様の方から連絡があるとは思っていなかった。 | 那只兔子说她因为讨厌捣年糕而逃到了地上,但因受八意大人之托而带着信函回到了月之都。因为放弃搜索八意大人已经过了好几百年,没想到八意大人会主动和我们联系。 |
手紙の内容は月の都を守る為のものだった。“もはや月の都には戻る事が出来ないし、こうして連絡を取る事も私達に迷惑を掛ける事になるので余り本意ではないが、地上の者で何やら良からぬ事を企んでいる輩がいるという事をどうしても伝えたかった。直接連絡を取るのは危険だと思ったので、偶然居合わせた玉兎を利用した事は許して欲しい”との事だった。 | 信的内容和守卫月之都相关。“我已经无法再回月之都,用这样的方式联系,会给我们造成麻烦,这实非本意,但地上有人在策划某种阴谋之事,无论如何我都要传达给你。由于直接联系非常危险,所以我利用偶然碰到的兔子传书,望见谅。”信的内容是这样的。 |
手紙を持ってきた兎は私の屋敷で匿う事にした。餅搗きに嫌気がさして地上に逃げたのだからその罪は小さくない。だが、八意様の手紙を持ってきたという功績もあるし、何より兎が可哀相な気がしたのでレイセンと名付け匿ったのだ。 | 我们把送来书信的兔子藏在了我的家中。因讨厌捣年糕而出逃到地上的罪过并不小,但她也有带来八意大人的信笺的功绩,最主要还是这个兔子给人感觉很可怜,于是给她起名Reisen藏在了家中。 |
「それに今のレイセンも、一度地上に逃げた経歴も持つからねぇ。また逃げ出さないとも言い切れない」 | “而且,现在的Reisen有过出逃到地上的经历,谁也不能断言她不会再次出逃。” |
「八意様の手紙通りならば、近いうちに地上から攻めてくる者がいる筈というのに、大丈夫かしら?」依姫は私の方を向いてそう言った。 | “如果八意大人的信中内容不假,那么最近就应该有人从地上攻来,没问题吗?”依姬看着我这样问道。 |
「今度は、兎には頼らない方が良さそうね。依姫、貴方が自ら戦えば良いのです」 | “这次还是不要依靠兔子为好,依姬,你自己去战斗就行了。” |
「え、ええ。敵の数にもよりますが……」 | “哎,好的。这要看敌人的数量了……” |
「大丈夫。貴方には数多くの神様が味方してるんだもの」 | “没问题的。许多神明都与你同在啊。” |
——私達の会話は中断を余儀なくされた。 | ——我们的谈话不得不中断了。 |
静かの海の向こうから何者かが飛来してきたからだ。 | 因为有东西从静海的对面飞来。 |
静かの海は月の都の正反対に位置し、この辺は月の民や兎達も余り訪れる事は無い。 | 静海位于月之都背面,月之民和兔子都几乎不会到这里。 |
飛来してくる者を注意深く観察した。小さな黒い塊——どうやらそれは鴉の様だ。 | 我们仔细观察飞来之物,发现那是—个小黑块——看起来应该是乌鸦。 |
「鴉……?」 | “乌鸦……?” |
「お姉様。鴉は太陽の化身です。月夜見様のお姉様の使いかも知れませんよ」 | “姐姐,乌鸦是太阳的化身,那说不定是月夜见大人的姐姐大人派来的使者。” |
「……いや、あれは違う。憎しみを持った血、欲深き好奇の目、穢れた羽を感じる」 | “……不,不是的,我能感受到它充满憎恨的血、欲望强烈的好奇之眼、还有污秽的羽翼。” |
あの鴉が太陽の化身ならば、その足は三本で瞳は赤でなければいけない! | 那乌鸦如果是太阳的化身的话,一定会有三只脚和红色的瞳孔才对! |
「あれは——地上の鴉です」 | “那是——地上的乌鸦。” |
鴉には私達の姿が見えていないのか、一心不乱に飛んでいた。それどころか動物が持っているという帰巣本能などの超感覚が働いていないらしく、ただただ真っ直ぐ飛んでいるようである。やがて私達の頭上を越して飛んでいった。 | 不知是不是没看到我们,乌鸦径直飞着。而且,看起来并非出于动物的归巢本能之类的超感觉,而是一直朝前方飞着,最后飞过了我们的头顶。 |
「地上の鴉……やはりこれも神隠しなのでしょうか?」 | “地上的乌鸦……果然这也是神隐的缘故吗?” |
「もうすぐ攻めて来るであろう敵と何か関係があるのかも知れない、後を追いましょう!」 | “也许和即将攻来的敌人有关系,我们追上去吧!” |
鴉は時折方向転換をするだけでまっすぐ飛び続けた。 | 乌鸦笔直地飞着,只是有时候转换方向。 |
「何か妙ね……地上の鳥が迷い込む事は滅多にないし、それに飛び方が機械的すぎる」 | “真奇怪……地上的鸟很少有迷途的,而且,那种飞行方式,太过于机械了。” |
鴉は晴れの海を越え、雨の海を越え、嵐の大洋へと飛び続けた。 | 乌鸦飞过晴朗海、越过雨海,飞向风暴洋。 |
「やはり、あの鴉は何か目的があって地上から裏側の月にやって来ている!」 | “果然,那只乌鸦是出于某种目的而从地上飞到月球背面的。” |
それは、鴉が事故でやってきたのではなく誰かが仕向けた刺客って可能性があるという事だ。 | 那就是说,那只乌鸦并非因事故而来到这里,而很可能是某人指派的杀手。 |
月の都は裏側の月に存在し、さらに結界を張りその姿は隠されている。人間が攻めてこようと、その結界を破れない限り月の都には入れないのだ。その結界の内側に飛び込む為には決められたルートで都を目指す必要があるのだが、何故か鴉は見えない筈の海の道を辿っていた。まるで | 月之都存在于月球背面,而且设了结界隐藏其形。就算人类打算进攻,只要无法破坏结界,就不可能进入月之都,要飞进结界内部,必须按照指定路线向都城进发,可这只乌鸦不知为何却沿着应该看不见的海之道前进着。简直就像 |
鴉はスピードを一切落とさずに嵐の大洋を越えた。このまま行くと月の都の結界を破りそうである。 | 乌鸦没有丝毫减速飞过了风暴洋。这样下去,有可能打破月之都的结界。 |
「お姉様。このまま行くと月の都に辿り着いてしまいそうよ!」 | “姐姐,这样下去,它就要到达月之都了!” |
「あの鴉は相当穢れを持っています。入れさせる訳にはいきません」 | “那只乌鸦非常污秽,绝对不能让它进去。” |
妹に鴉の追跡を任せ、私は先回りをし鴉の行き先を操作する事にした。月の都に辿り着く為の最後の海に罠を仕掛ける為だ。 | 把追踪乌鸦的任务交给妹妹,我抢先一步开始操作起乌鸦前进的道路,为了在通往月之都最后的海上设置陷阱。 |
海の上で暫く待っていると鴉は生物と思えない程、私の頭上に正確に飛んできた。 | 我在海上等待了一会儿,乌鸦以根本不像生物的精确性,飞到了我的头顶。 |
「 | “生于秽土,受恶念所制之秽身,此处非汝净土!” |
私が両手を広げると足下の海が次第に水分を失い、乾いた大地が姿を現し始めた。 | 我展开双手,脚下的大海逐渐失去水分,出现了干枯的大地。 |
草木の生えていない荒涼とした山、人間の月面探査の残骸、黒い空。そして空気の無い世界。 | 草木无法生长的荒凉大地、人类探索月球表面的残骸、黑色的天空。以及,没有空气的世界。 |
荒涼とした表の月——これこそ地上の追い求めた月の姿である。何と醜い、寂しい世界なのだろう。 | 荒凉的表之月——这正是地上人类追求的月球之姿,这是何等丑陋、何等寂静的世界啊。 |
大気と重力を失った鴉は、飛ぶ力を失い回転しながらゆっくり墜落し、口から泡を吹いた。そしてまもなく息絶えた。呼吸が出来ずに窒息死したのだ。 | 失去了大气和重力的乌鸦没有了飞行的气力,旋转着缓慢坠落,口中吐着泡沫,随后断了气,因无法呼吸而窒息死亡。 |
私は海と山を繋ぐ事が出来る。表の月と裏の月を結ぶ事も出来る数少ない者の一人である。 | 我能够连接海与山,是有能力连接月球表面与背面的少数人之一。 |
鴉が完全に動かなくなった事を確認すると、再び海は水を湛え、豊かな大地が姿を現した。 | 在确认乌鸦无法再次活动之后,我让大海再次充满海水,使大地恢复丰饶之姿。 |
「お姉様! 鴉はどうなりましたか?」 | “姐姐!乌鸦怎么样了?” |
「完全に息絶えたわ。この鴉は誰かの意思で月に送られ、確実に月の都を目指していた、これが判った今、殺す事が最善だった筈です」 | “已经完全断气了。这只乌鸦是按某人的意志送来的,确确实实以月之都为目标,既然如此,杀掉是最妥当的。” |
「……ええ。それが最善で間違いないです」 | “……是啊,这样最妥当。” |
「この鴉の死骸は、少し調べる必要がありそうですね。依姫、何か調べておいてくれないかしら?」 | “这只乌鸦的尸骸,看来有必要进行一番调查呢。依姬,能不能帮忙做些调查呢?” |
「私は兎達の訓練で忙しいのです。お姉様はやる事が無くて暇なんじゃ無いですか?」 | “我忙着训练兔子呢。姐姐你不是没事可做,清闲得很吗?” |
「う」 | “呃” |
私は暇が大好きなのに。 | 我最喜欢清闲了啊。 |
「大体、お姉様は緊張感が足りないのですよ。いっつも桃を食べたり海に行ったり、たまに稽古に顔を出したかと思えば兎達と一緒に雑談したりして……」 | “说起来,姐姐你就是紧张感不足嘛。总是吃桃子,或者来海边,偶尔在训练的时候出现一下,却是在和兔子们聊天……” |
調べ事は私の得意分野ではないのだけど。まぁ、戦闘も戦術指南も調べ事も普段はみんな妹任せだから、一つぐらいは私も何かしないといけないかと自分を言い聞かせた。 | 调查虽然说不是我最擅长的领域。算了,既然战斗啊、战术指导和调查平时都一直交给妹妹去做,偶尔我也得做点什么才行。我这样劝告自己。 |
「あーあ、判りました判りました。私が調べておきますよ」 | “啊—啊,知道了知道了。我去调查就是了。” |
私達は軽く笑った。その笑いには若干の緊張が含まれていた。 | 我们都轻笑着。笑容中包含了几分紧张。 |
注释
- ↑ 单行本初刷误作“綿月依姫”
- ↑ 日本谚语“人の噂も七十五日”。
- ↑ 即浦岛太郎。也出现在东方文花帖中妹红的符卡瑞江浦岛子与五色的瑞龟里,在这里名字被写为瑞江浦岛子。
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